政府が隔離期間を短縮することを決めたと報じられている。ロイターの「新型コロナの水際対策、ワクチン接種者の待機期間短縮へ=官房長官」というタイトルを見た時には「ついに来たか!」と体中の血が沸くような興奮を覚えたが、記事を開いてみたら14日間が10日間になるとあった。

失笑だ。そんな程度の緩和は海外では半年以上前から始まっていた。なぜ今10日間なのか。

筆者は今年1月に海外に出る機会があり、帰国時の抗原検査で偽陽性に見舞われて専用ホテルで強制隔離されたが、運良く翌日にPCR検査を受けることができて解放された。そしてそれから13日間の隔離に入るものだと思っていたら、PCR検査で陰性が確認されたために以降の隔離は不要と言われた。イレギュラーだったとはいえ、またデルタ株が猛威を振るう前だったとはいえ、そういう判断は可能だったのだ。

今、世界の多くの国は、ワクチンや検査を組み合わせていかに往来の再開を実現し経済をリカバリーするかにステージを移している。変異株の懸念は世界共通だが、そのリスクを計算に入れた上でアクセルを踏み始めているのだ。「要塞」と揶揄されるほど厳しい対策を取ってきたオーストラリアでさえウィズコロナに方針転換し、12月に国境を開放する計画を発表している。

にも関わらず、Yahoo!のコメント欄では経済評論家だという人物が、「14日間隔離に穴があるのに10日間にしたら新たな変異株が侵入しやすくなるかもしれない。ワクチン接種率が高くなったとはいえブレークスルー感染で第6波に繋がって景気回復が遅れる可能性がある。水際対策の徹底にかかるコストは緊急事態宣言などによる経済損失に比べれば微々たるもの」などとするコメントを投稿していてまた腹が立つ。ふざけるなと言いたい。

確かに変異株は恐ろしい。しかしまだ何も明らかになっていないリスクに対して水際対策をとり続けるべきと言うのであれば、どのような条件であれば出入国を再開できるというのか。変異株が出てこなくなったら?あるいは無敵のワクチンができるまで?どんな矛も防ぐ盾の話など何の意味もないと教科書に書いてあるだろう。

それに、新型インフルエンザだとかもっと恐ろしい別の感染症が登場する可能性だってあるわけで、そんなことも考えていたら未来永劫このままだ。また別の視点で言えば、10日間と14日間とでリスクがどの程度変わるというのか。

旅行観光産業は、コロナ前の2019年には世界のGDPへの寄与額が8.9兆ドルとなり、全体の10.5%を占めている日本も39.2兆円で7.0%であり、人口が1日あたり約1500人も減る日本において未来を期待できる数少ない産業ではないのか。

「まずは10日間」ならまだ分かる。それにしたってなぜそう判断したかの説明は必要だが、それでも「次の段階はこういう条件でいつ頃に5日や3日に」と言ってくれればなんとか我慢もできるし、建設的な意見のしようもある。今は、どこまで続くか分からない道を蜃気楼を見ながら歩いているようなもので、もはや限界は近い。

もしも件の経済評論家氏のように国が「旅行観光産業のダメージは微々たるものだから後回し」と考えているのであれば、さっさと教えてほしい。そうすれば旅行観光産業の多くの関係者が人生の貴重な時間を無駄にせずに済む。(松本)