先週の当欄でワールド航空サービスの不正受給疑惑について思ったことを書いたところ、想像より多くのアクセスが集まりコメントも投稿いただいた。コメントについては普段から基本的にお返事をしていないのだが、「自分の会社でも闇出勤をさせていた」と書いてくださった方々には、もし社名も教えていただければ裏取りをするなりして報じたいと思っており、フォームからご連絡いただければ幸いだ。

一方、「弁護するとは」「甘すぎる」というご批判もあったが、こちらは「弁護」したつもりはなく、断定ではない「疑惑」という報道以外に材料がなく書けることが限られていた中で個人の思いと客観的な推測を記したまで。業界メディアとして、こうした報せに対し「嘘であってほしい」と願い安寧を求めること、またできるなら業界側をひいき目に見たいと考えるのは当然と考えており、長く続けているためにこの感覚が世間とズレている可能性は否定できないが、それに嫌悪感を覚える方がおられるなら文春でも日経でもお読みいただければと思う。

さて、その中間報告については、記者会見を見ていないので正確なニュアンスはわからないものの、報告書は「とにかく労務管理など諸々の体制がザル過ぎてまともな調査をできるだけの資料やデータがほとんどなく、不正があったかどうかを断言するだけの材料がない」というような内容で、率直な感想として期待はずれだった。

公のルール上「支給申請書に事実に反する記載があった場合であっても、当該記載誤りが故意によらないものと認められる場合は不正の行為には該当しない」とあるらしいので、理屈上は「証拠がなにもないのでグレーではありますが黒とは言い切れません」で押し切れるのかもしれないが、心理的にはどうか。そしてそれで済むのであれば、他の会社もこの報告書を参考にどうにかすればいいということになる。

また、例えば「これらのgmailアドレス(中略)の送受信履歴を確認したところ、やりとりはすべて残されており、削除された形跡は認められない」という部分は、フリーメールとしてのGmailで完全にメールを削除してからその形跡を確認する方法を筆者は知らず、ただの知識不足かもしれないが字面通りに受け取っていいものか分からないでいる。

さらに、会社の沿革について「当時の業界内で常態化していた悪しき習慣への挑戦を目的として(中略)設立された(中略)旅行会社」などと随分おもねった印象の表現をしていたり、また結びのパラグラフの「添乗を中心とする団体旅行運営会社の業務実態や長年に渡り従業員の自主性に依拠してきた労務管理を採用してきた歴史からするとその整備の余裕のないままコロナ禍におそわれたと解することもできなくはない」という文言も旅行業界に明るくない人物から出てくるとは考えにくく、調査の独立性に疑問を感じてしまう。

ただし、公平性のためにも書いておくと、例えば菊間会長が今年1月の全国幹部会で「雇用調整助成金の研修がだんだん『セミナーをろくすっぽ聞かずにレポートを出せば事足りる』的になってきているのではないか。実のあるセミナーにしていきたい」と発言していた、また雇調金申請前の昨年3月ではあるが経営企画本部長が支店や営業所に対し「出勤させることはもちろんのこと、会社パソコンの操作、個人パソコンやスマホからサイボーズ等へのアクセスは厳に慎むよう必ずご徹底ください」と指示していたなど、確かに故意ではなかったと言えそうな情報も見られる。

(本部長の指示は「今朝の役員会では、もし休業予定だったのに無連絡で仕事をさせていたら、店舗長や上長に、その人の分の助成額を負担させろという話も出ました」などと続いており、それはそれで体質的にどうなのかと思わせられるが。)

しかし、他の業界でのこうした調査報告書をまともに読んだことがないので標準が分からないとはいえ、普通の感覚では納得感は少ない。中間報告書には「ワールド航空関係者からNHK報道局や東京労働局等に対して多数の情報提供が行われて」いたとも書かれているが、それら関係者はこれをどう読むのか。最終報告では「これならば」と思えることを期待したい。

それにしても、これだけワークライフバランスや働き方改革が叫ばれているなかで、業界団体の会長や副会長を長年務めてきた人物の会社が勤怠管理すらろくにしていなかったというのは、事実だとすれば悲しすぎる。(松本)