「パンデミックは終焉期」「サバイバルモードは終わりでこれからはリバウンドモード」。これらは先週金曜日以降に掲載した記事の中で取り上げた言葉だが、前者はデルタ航空の、後者はアコーのCEOが発言したものだ。航空とホテルという国際旅行の基幹産業において、世界でも指折りの2社が「コロナ禍はもうそろそろ過去のもの」と言っているのである。


これに対して、上図は2020年1月以降のインバウンド旅行者数について日本とスペインの数字を比べたものだが、日本はいまだにほぼ無風状態。長期間逃れようのないストレスにさらされ続けると人間はそれを回避しようとする努力も放棄してしまうそうで、そういった「どうせ変わらない、意味がない」という諦めを心理学では「学習性無力感」と言うらしい。たしかに、グラフの曲線が上向くことへの期待感はホコリにまみれてしまっている。

NHKのデータによると10月1日から11月25日までの累計で日本全体の新規感染者数は2万1251人、11月に限れば3963人に収まっており、ワクチン接種率も8割に迫ってきている。しかし、それでも入国制限の緩和は思うように進まず、一体どのような条件を満たせばまともな往来が許されるようになるのか。また、なぜ判断基準や今後の方針が示されないのか。

ニュージーランドは今週、来年4月に7日間隔離付きでワクチン接種を条件に外国人旅行者の受け入れを再開すると発表したところで、当然「それでは慎重過ぎる」と批判を受けているものの、ロードマップを公表する意識があるだけマシな気がしてしまう。

お隣の韓国では感染が急増しているそうで「これはまずいことになりそうだ」というような取り上げをするメディアが増えており、慎重派はそれ見たことかと目くじらを立てているが、急増している間にもシンガポール、豪州、パラオとトラベルバブルが次々決まっているのも事実だ。

ただし、新たな変異株への懸念が高まっている点は大いに不安を感じる。これまでも出ては消えてだったのでどうなるか分からないものの、もしかしたらデルタ株を超える猛威を振るう可能性はある。

こちらのページの通り、世界保健機関(WHO)は変異株のうち感染力などが高いものを「注視すべき変異株(VOI、Variants of Interest)」と「懸念される変異株(VOC、Variant of Concern)」に分類しており、VOCはVOIよりもリスクが高い判定となる。

そして、VOCは昨晩までアルファ、ベータ、ガンマ、デルタの4種類だったのに、朝起きてみたら新変異株が「オミクロン」としてVOC認定されていた。デルタ株は昨年10月に初めて記録され、VOI登録が今年4月4日、VOCが5月11日と7ヶ月間かかったのに対し、オミクロンは今月9日に初めて見つかって24日にVOIの前段階である「VOM、Variants Under Monitoring」となり、26日にはVOIをすっ飛ばして3週間未満でVOCに駆け上がったことになる。

感染急増の韓国ともバブルを決める国が増えている現状は、多少のリスクを取ってでもその気のある国とは出入国を再開するのだという意欲の表れと言えるが、今後の動向次第で再び国境閉鎖やロックダウンの嵐が吹き荒れるかもしれない。「バブル先進国」の中から脱落する国が出てくるかがポイントになるだろう。

その時はその時だが、そもそもオミクロンがアルファからガンマまでと同じように大きな影響を及ぼさなかったとしても、以前から書いているように変異株は今後も次々出てきて不思議はない。そして、こうしてそのリスクが顕在化するとコロナ禍の旅行観光産業の危うさがつくづく感じられ、慎重の上に慎重を期する今の方針を維持するのであれば、より手厚い公的支援が提供されなくてはならないと思う。(松本)