豪州では、世界最大の砂の島であるクイーンズランド州のフレーザー島について名称を「ガリ(Kʼgari、旧フレーザー島)」へと正式に変更することが今月発表されるなど、地名を英語による後付けのものから先住民の名付けた名称へと回帰する動きが進んでいる。

先住民グループを土地の伝統的な所有者・管理者として認め、尊重しようとする大きな流れの一環だが、豪州への旅行を販売する旅行会社にとっては、高い認知度をすでに獲得している名称に対して聞き慣れず音の響きにも馴染みを感じにくい本来の名称をどう扱うべきかは悩みどころだ。

こうしたなかで、英国の旅行業界メディアTTGは6月21日、「旅行会社は豪州を販売する際に先住民の地名を使うべきか」と題した記事を公開。先住民が尊重されることは正しい流れとしたうえで、旅行会社は積極的に伝統的地名を使用することで営業の好機とするべきだと書いている。

この根拠については、まず正しさでは「そもそも言語は文化の根幹であり、また伝統的な名称を学んで使うことは正しく敬意を示す行動」であるとし、さらに英語名の一部は凄惨な負の歴史と結びついていることも指摘。

一方、営業的側面では、コロナ禍となって以降に先住民主導のツアーやアクティビティが多数誕生しておりコミッション収入が期待できること、それらのツアーやアクティビティはユニークかつオーセンティックで環境負荷が低く、地域コミュニティを潤すことを列挙。さらに「楽園」を意味する「K’gari」や「ムラサキスイレンの咲く場所」を意味する「Meanjin」の方が「フレーザー島」や「ブリスベン」よりも旅情をかきたてると提案した。

そうは言っても難しい、というのが多くの旅行業関係者の率直な意見だと思われるが、それでもTTGは「旅行観光産業の“顔”である旅行会社は消費者を教育する明確な役割を担う」と断言し、「先住民の物語は、点描画とディジュリドゥとダンスに留まらない素晴らしいもの」とのオーストラリア政府観光局本局局長のコメントも紹介。

そして、英国でも最初の問題提起から30年が経ってもいまだに「ウルル」ではなく「エアーズロック」の表記が使用されることが少なくないなど時間がかかることは間違いないとしつつ、まずは「英語名/伝統名」のように併記するかたちで始めてゆくゆくは前後を逆転させていく道を提示した。

伝統名はつづりが複雑で、実はTTGの記事自体でもいくつもスペルミス(と見られる表記)が見られるが、それでも「新しい空港コードを覚えるようなもの」であり少しずつ慣れれば良いとの現地関係者の意見も取り上げられている。

ちなみにパースは「Boorloo」、ダーウィンは「Gulumerrdgen」、シドニーは「Warrane」、メルボルンは「Naarm」、アデレードは「Tarntanya」、ケアンズは「Gimuy」、ホバートは「Nipaluna」が伝統的な名称だそう。長い道のりの第一歩として、まずは日本語表記が観光局などによって指定されてほしいところだ。