今週は、日本旅行業協会(JATA)会長の菊間潤吾氏が代表取締役会長を務めるワールド航空サービスが雇用調整助成金を不正受給したのではないかとNHKが報じ、業界関係者を驚かせた。実際には7月にYahoo!ニュースで毎日新聞の「『旅行業狙いうち』業界団体、キャンセル料など政府に補償求める」という記事が掲載された際にコメント欄で元社員というユーザーが「闇出勤をさせている」と書き込んでおり、もしかしたらそれがNHKの報道に繋がったのかもしれない。

個人的には「◯◯の会長が代表取締役を務める××が不正に△△していた疑い」というテンプレ的文言はこれまで別の業界ではよく見聞きしていたが、自分のフィールドで発生すると「ああこういう気分で見ることになるのか」と妙な得心もあり、ある意味で得がたい体験となった気がする。

今後について考えると、当メルマガのコメントでも書いたが旅行会社に対しては昨年にもGoToトラベルに関する批判があったところで、今回の件はJATAだけでなく旅行業界全体のレピュテーションリスクになるだろう。コロナ禍で旅行会社の提供するサービスが再評価されるのではと期待されているところであり、率直に言って残念だ。

現状としては、来週にも独立委員会の調査結果が出る、そして菊間氏は自身の進退をJATA理事会に一任しているということが分かっているが、進退については同氏が知っていたかどうかはさておき辞任は免れないのではないか。

菊間氏は気さくな人柄で、筆者自身も様々な場面で長くお世話になってきており、また同じ業界での身内びいきもあるのでもし本当に関知しないところで起きたことなのであれば、とは思う。しかし、他の業界の同じようなニュースを見ればろくに事実関係を知ろうとせずに辞任が当然と感じてしまうだろうし、辞めなければ当人と団体への風当たりは更に強くなるはず。もちろん調査の結果なんの問題もなかったということになれば話は別だが、火のない所に煙は立たないとも言う。そうした世間の目を変えられるほどの新情報が来週に出てくるかが分水嶺となるだろう。

ちなみに、又聞きではあるがワールド航空サービスは国内旅行の販売が好調で業績は良かったらしく、どういう事情でこうなったのか疑問が残る。その辺りも来週には分かるだろうか。

また、もう一つ気になるのは、実は多くの会社が大なり小なり同じようなことをしていはしないかという点だ。同社が研修に関する加算金も不正受給していたとするNHKの続報では、研修の動画を視聴したことにする、レポートを濫造するというようなことが書かれているが、他社ではどうなのか。雇用調整助成金は旅行会社だけのものではないし、芋づる式に次々と表に出てくるかもしれない。

そして、もしもそんな事態になったら大変なことに…と最初は思っていたが、今はむしろ旅行業界への影響は小さくなる気がしている。たしか、以前話題になったホテルの食材偽装問題も、最初は「この会社はなんてことを」という論調だったが、今しかないとばかりに多くの会社が後に続いて公表したことで、標的が増えてしまって話題としての特別性もなくなっていったように記憶している。

もちろん業界のモラル的にはそうした会社が多いよりは少ないほうがいいのだが、いずれにしても膿はあるなら出しておいた方が良く、もしマズいことになったと慌てている会社があるならさっさと公表しておいた方が良い。同様にJATAに対しても、ただ嵐が過ぎ去るのを待つよりもこのタイミングでしかできないことをし、より良いJATAへと進化を遂げてほしいと願っている。覆水は盆に返らないが、ピンチはチャンスに変えることができる。(松本)