先月末に取り上げたアメリカン航空(AA)によるNDC戦略の見直し。簡潔に言えば方向性は正しいものの進み方を誤ったいうことに尽きそうだが、「やっぱりやめました」ですべてが元通りになるわけもなくこの半月ほどの間にも後始末の続報が届いている。

方針撤回が明らかになった直後の現地時間5月29日には、Skiftが改めてAA CEOの言葉を紹介。これによると、同氏は自社が墓穴を掘って第2四半期に営業利益で2億ドル程度の打撃を受ける見込みだと認め「それを取り戻すために、我々は多くの仕事をしなければならない」と話したとのこと。

CEOは昨年10月にはまだ強気の姿勢を見せて「顧客が利用可能なものを伝えるのに多くの中間流通業者を必要とするべきではない」と主張していたが、約半年後の発言では「我々は長期的な計画をもっとうまく実行しなければならない。そしてチームとして前進し、自社がビジネスをしやすいようにしなければならない」と語ったという。

翌30日にはBUSINESS TRAVEL NEWSが業務渡航関係者のコメントをまとめて掲載。このうちロッキード・マーティンの出張プログラム担当幹部は、「我々がAAの戦略に反対するリーダーであったことを誇りに思う。我々はただちにAA利用比率を大きく引き下げた」「私や他の多くの同業者によって、AAは初日から戦略の欠陥を指摘されていた。(退任したCOO)がその立役者だったが、(CEO)はそうした指摘に耳を貸さず戦略に同意して全面的に支持した」などと猛烈に批判。「AAは個別の出張者たちを顧客と捉えようとしたが、実際には企業の出張プログラムこそが顧客」「我々は9.11やコロナの後も出張を継続しているが、AAはコロナを経て(出張が減り)レジャー旅行が増えたと見るや否や長年にわたる企業との関係を一蹴した」などという言葉も並んでいる。

見直された後の戦略についても少しずつ明らかになっているところだが、この短い期間でも伝えられる内容が変遷するなど混乱の様相が伝わってくる。5月31日には、米Travel Weeklyが今年2月に発表して物議を醸した「推奨代理店(preferred-agency)」プログラムを見直してインセンティブを支払う方針であることを伝えていたが、6月10日付のthe Company Dimeの記事はNDC経由の予約率に応じて「推奨」を定める同プログラムの導入も断念することを伝えた。

現時点で明らかになっている最新の情報としては、BUSINESS TRAVEL NEWSが6月12日に伝えているようにベーシックエコノミーなど一部を除くほとんどの運賃コンテンツをEDIFACT経由の流通チャンネルにも復活。またこの記事でも推奨代理店を公表する計画は取り下げ、その代わりにNDC導入に力を入れる旅行会社に対するインセンティブを一定期間強化する計画であることを伝えている。

旅行会社側のその後はどうかというと、6月7日に米Travel Weeklyは米国トラベルアドバイザー協会(ASTA)のカンファレンス会場での取材をもとに記事を書いており、AAの方針転換に安堵する様子を伝えつつもAAが「枯渇」させた代理店営業チームや旅行会社コミュニティを中心に植え付けられた嫌悪感など問題が山積している状況を説明。撤回までの間には、ASTAの用意したウェブサイトを通して何千通もの陳情メッセージが議員に送られたほか、出張者たちからも支持が得られていた一方、AA施策による取り扱いの減少によって複数人の雇用削減を迫られた旅行会社もあったという。

一方、テクノロジーの進歩を遅らせてはならないとの警鐘も。例えばNDC対応に積極的なTMCの1社であるAmTravのCEOはPhocusWireへの寄稿で、間違ったのはAAがとった方法であって航空券流通の近代化を後戻りさせるべきではないと指摘。「(今喜んでいるTMCは既存の)予約ツールでメインキャビンエクストラの座席を購入できない顧客に対して何と言うのだろうか?AA.comのように簡単に航空券を変更することもできない。あるいは天候による欠航や遅延の際に即座に別の選択肢を選ぶこともできない。(COO)を解雇してもこれらの問題は解決しない」とし、AAには「大企業を疎外できると信じた」誤りを正しつつテクノロジーへの投資はさらに強化してほしいと要望した。

そして、TMCなどサードパーティの販売業者に対しては、自社や自社のツールが利用され続けることを望むのであれば「出張者、特に若い出張者がますます求めている選択肢、利便性、サービス提供能力」を手に入れ、「出張者が航空会社のウェブサイトで得られるのと同じコンテンツ、オプション、サービスを提供できる」ようにする必要があると釘をさしている。

とはいえ、航空券流通は世界中で日々行われているもので、また航空会社側が使用するNDCのバージョンが異なったりするなど標準化の道は険しい。TTG Miceによると、このほどシンガポールで開催されたグローバル・ビジネストラベル・アソシエーション(GBTA)のシンポジウムでは、市場で広範に利用可能な最低限の機能にしぼった「Minimum Marketable Product」のフレームワークの必要性も指摘されたという。

ちなみに旅行業界の別の場所では、この2週間程度の間にもSpotnanaがエミレーツと接続したりオマーン航空がAccelya経由でNDCコンテンツを提供できるようになったり、あるいはアマデウスがEtraveliグループとNDCを含むコンテンツ提供の契約を拡充したりと日々進展が伝えられているところ。一方、エールフランス/KLMでは、すでにレジャー系旅行会社では導入済みでTMCに対しても課す計画のGDSサーチャージについて4度目の延期を決定したことが今月5日に報じられている。