ブロックチェーンを基盤とする旅行の流通システムを開発していたWinding Treeが事業を停止した

Winding Treeは2017年の創業で、GDSなど従来型のプラットフォームが旅行素材の流通を牛耳っている状況でそうしたプラットフォームは最新テクノロジーを積極的に活用するよりも時代遅れの自社システムにユーザーを囲い込むことに注力していると批判。オープンソースで分散型のシステムを構築することでB2B旅行流通の市場を真に自由で競争的なものにしサプライヤーにとっての流通コストも大幅に引き下げることを標榜していた。

2017年当時はブロックチェーンやNFTが持つ可能性に高い注目が集まっていたころで、Winding Treeもそうした流れのなかで旅行流通の未来像を示していそうなプレーヤーの代表格とでも言うべき存在感を示し、ルフトハンザやエールフランス/KLM、アメリカン航空なども直販拡大に期待して参画してきていた。

今回の決断について創業CEOは、事業の趣旨に対して業界関係者からは多くの支持が集まったものの実際の導入となるとハードルが高かったなどと説明。具体的には仮想通貨自体が社会全体に浸透しているとは言えない状況に加え、ブロックチェーンなどについて旅行観光産業の企業を教育し理解を促進する作業が難航したという。

2022年頃にはB2Cのホテル予約サービスも構築し、革命的な取り組みに対して特に協力的だったダブルツリーからは市場価格の50%割引という破格の条件を得てさらにWinding Treeもコミッションも要求せずに稼働したが、それでも十分な成功は収められなかったとのこと。ほとんどの企業は暗号通貨を支払手段として受け入れることはおろか、暗号を扱うこと自体にも消極的であり、さらに暗号通貨関連の会議出席者ですら割引を提示してもほとんど利用されなかった。

とはいえ、CEOはアイディアは間違っていないがタイミングが悪かったとの考えで、プロジェクトのすべてのコードをGithubに公開。興味を持つ者へのサポートも提案している。

ブロックチェーンによる分散型の旅行流通プラットフォームというコンセプトに輝かしい未来があるのか、それとも蜃気楼のような幻の理想郷でしかないのかは不透明。しかし、PhocusWireが2018年末に掲載したブロックチェーン関連のスタートアップをまとめた記事で紹介された14社のうち7社は公式サイトがすでにアクセス不能でWinding Treeも廃業を決定しており、残る6社も更新が停止していたり、AIに宗旨替えしていたりと精彩を欠いているのが実情。少なくともこの6、7年間は刹那的で過剰な期待が先行する「overhyped」状態だったと評価するほかないだろう。

同じように旅行業界でも2022年ごろに盛り上がりを見せたNFTアートは大暴落しているところで、似通った狂騒の終わりを感じさせる。一方、最近のグローバル・ビジネストラベル・アソシエーション(GBTA)の調査でもブロックチェーンはAIと並ぶ重要なキーワードとして登場しており、テクノロジーとして捨て去られようとしているわけではないことにも注意が必要だ。

ちなみに目下の一大トレンドといえばAIの活用で、スタートアップからグローバル大手まで猫も杓子も状態だが、果たして数年後にはどのような様相を呈しているだろうか。Winding TreeのCEOがブロックチェーンについて嘆いた難解さという課題はAIには無縁で、むしろ多くの消費者が旅程作成時のAI利用に前向きな姿勢を示す調査結果が次々に出てきているものの、生成AIの回答の正確性など乗り越えなければならないハードルも大きい。