当ブログでこれまで何度も取り上げてきているオーバーツーリズム問題。観光客が殺到することで当地で暮らす住民の生活の質が低下する構図は世界中の人気旅行先で共通の課題となっているが、住民感情の悪化はとどまるどころか悪化の一方だ。

特にバルセロナでは観光客に対して水鉄砲で水を浴びせながら「帰れ!」と訴える大規模な抗議活動まで起き日本でも報じられているところで、京都や富士山周辺などでの混雑で不満が高まっている地域でも、いつか同じような「実力行使」が発生しないとも限らない。バルセロナの映像などが「これならOK」という免罪符、あるいは暴発の引き金になるような未来も想像できはしまいか。

というか、米国のこの10年程度を振り返っても今回の都知事選を見ても、社会の分断や対立、混乱は避けられずむしろますます先鋭化していく方が自然と思われ、オーバーツーリズム問題も勝手に沈静化することはありえないだろう。

これに対して、環境負荷などの諸課題を含めて持続可能な観光=サステナブルツーリズムを実現する方法はまだ誰も見つけられていないが、様々な施策はすでに始められている。

定番の選択肢は「分散」で、世界中の国が訪問先や需要のピークを分散させようとしているが、消費者に行動変容を求めるものであることもあり即効性はない。

そこで最近は規制強化の流れが大きくなっており、上述のバルセロナでは市長が2028年までに民泊を禁止する計画を明らかにしているほか、民泊については紆余曲折はあるようながらハワイでも制限が強化されそうな状況。またアラスカクルーズで人気の寄港地ジュノーでは、土曜日や米国の独立記念日(7月4日)の寄港を禁止するアイディアが浮上している。

また、ベネツィアでは4月から日帰り観光客について入場料を課しているが、Skiftによると観光担当の副市長は滑り出しは順調との考えで、今後対象期間の拡大や料金の値上げも検討すると話しているとのこと。このほかでもアムステルダムがクルーズの受け入れを止めようとしたりホテル客室の純増を禁止したりとこうした動きは枚挙にいとまがない。

一方、サステナブルツーリズムの振興策としてムチではなくアメを用いようとする工夫も登場。travelmarket reportによると、コペンハーゲンの観光局は新たな取り組みとして「CopenPay」を開始。名前はよくあるキャッシュレス決済のようだが、都市農園でのボランティア活動やゴミひろい、公共交通機関の利用といった活動に参加した実績を、食事やツアーなど対象の特典の「支払い」に使えるようにするもので、消費者に自分の旅行の「フットプリント」について考え、訪問先コミュニティにおける持続可能性の取り組みに参加するよう働きかける狙いだ。

またPhocusWireが主催したパネルディスカッションでは、消費者の教育(education)が重要との意見が出されたとのこと。趣旨はCopenPayの目的と似通っており、「画面や新聞などを通して見聞きする問題と自分の旅行計画を結びつけて考えること、自分の選択が具体的にどのような影響を持つのかを理解することは消費者にとって非常に難しい」ことからその理解を助けるべきとの主張だ。

そしてこうした教育は、オフライン/オンラインを問わず送客する旅行会社や実際に旅行者を受け入れるホテルや現地企業の役割となる。もちろん事業者にとっては負担増だが消費者の意識が変化する中でチャンスと捉えることも可能で、海外ではすでにより持続可能な旅行に特化した旅行会社やホテルなども続々と誕生。

例えば最近の話題では、飛行機を利用しない旅程のプランニング二特化したテクノロジーを開発するBywayがシリーズAで500万英ポンド(約10.3億円)を調達したことがニュースになっている

また大手OTAでも、ほんの一例だがExpedia Groupはデスティネーションマーケティングにおける持続可能性の向上を支援するプログラムを開始している

このほか、欧州最大のツアー催行会社であるTuiグループのCEOはこのほどスペインの観光大臣と運輸大臣と会合し、観光が持続可能な形で成長していくためには旅行観光産業だけでなく住民や政治家の協力が不可欠であると強調。そのうえで「観光は観光地の経済的・社会的発展の原動力」であり、そのために「Tuiは経済的、社会的、環境的な持続可能性の調和」をめざしており「グリーンエネルギーや持続可能な燃料、教育やトレーニングの機会の強化、ホテルやクルーズ船における効率的な水の利用など、持続可能性はTuiのDNAの一部」となっていると訴えたという。