米国での旅行需要の回復が著しい。順調に進むワクチンの接種によって急速に消費者の安心感が増し、これまで強く抑圧されてきたいわゆる繰延需要が溢れ出すように顕在化しているのだ。

航空旅客が26日連続で100万人超え

 米国でのワクチン接種は、下表の通り他国を圧倒する勢いで進んでおり、ニューヨーク・タイムズによるとメーカー各社は1日あたりの平均で合計300万回分を

製造。このままいけば、17歳以上の人口全員が接種を完了できる可能性があるという。

 こうしたなかで、米国運輸保安局(TSA)が集計する空港保安検査場の通過人数(=航空旅客数)は、昨年4月14日には1日あたり8万7534人まで落ち込んだが、最上部のグラフ画像の通り3月上旬にすでに前年超え。さらに4月5日現在で26日連続で100万人を超え、特に4月2日は158万785人とコロナ後の最高値を更新。1月からの平均も98万6748人と好調に推移している。

 しかもこれらは、米CDC(疾病対策予防センター)が「ワクチンの接種を完了していたとしても旅行は控えるべき」と呼びかけていたにも関わらずの数値。CDCは4月2日に「マスク着用など注意深い行動は必要だが、ワクチン接種者であれば旅行しても問題なし」とのコメントを出しており、今後は更なる増加が予想される。

ホテル稼働率もコロナ後の最高値

 もちろん海外旅行はメキシコなど一部の例外を除いて回復には程遠い状況だが、国内需要については航空会社やホテルの予約増も顕著。例えばアメリカン航空(AA)は3月末の1週間で国内線のロードファクターが80%近くとなってオンライン販売も19年水準までほぼ回復し、ユナイテッド航空も国内線のレジャー需要がほぼ完全に回復して3月のキャッシュフローがプラスに転じたと報告。米国内線については、予想を大きく上回って22年の早い段階で完全に回復すると予想するコンサルティング企業も出てきている。

 当然のことながら地域や空港によって回復のペースにはむらがあり、ニューヨークなど大都市の主要空港は遅れている一方、フロリダ州キーウェストなどすでにコロナ前の水準を上回っている空港もある状況だ。

 ホテル業界でも、3月20日までの週は稼働率が前週を7ポイントも上回る58.9%となってコロナ後の最高値を更新。都市によっては80%を超える例もあるという。さらに、ワクチンの接種率が10%高くなるとホテル予約も18%増えるとの分析もあった。

 一方、旅行者の急増による弊害もすでに報告されており、3月にはマイアミに旅行者が殺到して緊急事態宣言が発令されたりハワイのレンタカー料金が高騰して1日600米ドルを超えるようなケースまであると報じられたりしている。旅行費用の観点では、米国内線の運賃が夏に向けて毎月4%から5%値上がりするとの予測もある。

 とはいえ、業界内の雇用も増加しつつあり、少なくとも米国ではワクチンが旅行・観光産業にとって事前の期待以上に救世主となっている様子が伺える。ちなみに、最近注目の集まるワクチンパスポートについて米政府は、その仕組みづくりは民間の役目で政府はそれをサポートするとの立場をとっている。

 なお、こうした中で依然として厳しい状況なのが、1年以上に渡って米国発着の航海を禁止され続けているクルーズだが、これについては後日別稿にまとめる。