ミャンマー軍によるクーデターと弾圧に対してリバークルーズの運航会社であるパンダウクルーズが勇気を持って批判の声を挙げ、医療や食料の支援を市民に対して提供しているそうです。寄付も募集されており、以前も書いた通り個人的に人生初の出張でお邪魔した思い入れのある国で心を痛めていましたので少額ながら私からも送金の手続きをしました。

同社は現地の生の様子を画像や動画で共有(凄惨な内容がありますので注意してください)しており、これを見ると想像以上に非道な状況であることが分かります。「観光は平和産業」「国家とは暴力装置」といった言葉がぐるぐると頭の中を回っていますが、観光というのは一体何を観るためのものなのでしょうか。

私が最初に現地を訪れたのも、反政府デモを取材していた日本人ジャーナリストが亡くなった後のリカバリーファムという位置付けで政府に招かれたもので、その政府は民主化が進む前の軍事政権でした。当時は観光資源の素晴らしさや食の豊かさ、市井の人々の暖かさに感動し大ファンになったわけですが、招待してくれたその政権の本質は現在に続いています。

今回の騒乱が何らかの形で収束した時にはまた何かしらそうした企画が出てくるかもしれません。その時にその視察は誰が主催し、何を見せようとするでしょうか。仮に軍事政権が体制を維持し、「たしかに悲劇はあったけれども状況は落ち着いたし、そもそも国全体で見れば限定的な話なのに大げさに伝わってしまっていた。現在は融和に舵を切っていて、安全は約束するので是非観光で訪れてください」という内容であった場合(よくあるロジックです)、1人の業界関係者としてそれをどう受け止めるべきなのか考えてしまいます。

軍事政権が悪で民主派が善という単純な切り分けは別の問題を生む気がしてなりませんが、それでも「自分の家族が死んだのは帰宅途中に運悪く警察に会ってしまったから」などという状況はどうしたって正当化できません。1日でも早く状況が改善し、「光を観る」観光が再開できることを願うとともに、パンダウクルーズの関係者や国民の皆様にこれ以上の不幸が起きないことを祈るばかりです。