「金継ぎ」という言葉をご存知でしょうか。割れたり欠けたりした陶磁器や漆器などを漆で補修し、その継ぎ目に金をあしらって再生するもので(銀を使ったり漆のままにする場合も)、割れる前よりも味が出るということで最近は外国の方々にも人気が出ていると聞きます。
私もそそっかしいために度々食器を破損してしまっており、いつか始めたいと思い実はキットも買っていたのですが、漆を扱ったことがなく、さらに本物の金粉なので値段が高く失敗したらと躊躇してずっと手を付けずじまいでした。
ところが先日、手に入りやすいもので簡単に体験できる方法があると分かったのですが、そこで使用するのが「木工用ボンド」と知って大変驚きました。工作が得意な方ならわかると思いますが、日本の定番の木工用ボンドは木材に染み込むことで接着力が高まるのが通常で、陶器のように吸水性の低いものには使えません。
翻って金継ぎ用に勧められているのは米国製のものであり、日本のものと性質が異なるのは不思議ではないのですが、それでもパッケージの用途に陶磁器などとは書いていません。私も木工用で以前からその製品を持っていたものの、木や紙など以外の素材に使うことは考えてもみませんでした。
…と、脈絡なく旅行と関係のない話を長々と書いてしまいましたが、何が言いたいかというと、目の前にある道具や素材の使いみちを疑ってかかる、虚心坦懐にその機能や特徴をもとに発想を広げてみるという習慣は、実はビジネスにも有用なのではないかと感じています。
上記のボンドの使い方は、例えるなら「輸送という目的は一緒だから船を空に浮かべてみよう」というような発想で、もちろん旅行の世界ではそんなことをしてもメリットはあまり思い浮かびませんが、それくらい突拍子もないアイディアが出るのは良いことなのではないだろうか、という話です。
例えば、これまで根本的な打開策が見つからずにジリ貧の状態が続き、コロナ禍が引き金となって大きく数が減らされようとしている旅行会社の店舗も、もしかしたら思ってもみない活用方法があるかもしれません。
飲んで食べることしか考えていない私が個人的に思いつくところでは、さして目新しいアイディアではないものの、せっかく街々にあるのですから地域内の美味しい飲食店を信頼できる水準で紹介するとか、周辺のパン屋の商品をセレクトショップ的に集めて売ってみるとか、可能性は色々あるのではないかと思います。(松本)