JTBが4月7日に発表した「バーチャル・ジャパン・プラットフォーム事業」のクオリティがあまりにも低いということで、炎上気味です。確かに動画画像を見る限りやむを得ないというか、どうしちゃったのかと思わざるを得ません(余計なお世話でしょうけれども)。

昨年3月末時点で2.7万人以上いる(現在は数を減らしているはずですが)社員の皆さんがこのクオリティを良しとするとは到底思えず、したがってこちらのサイトでも書かれている通り、これにGOサインが出てしまう組織のあり方にこそ問題があるのでしょう。これが経済小説だと次のシーンは社内の責任のなすり合いだと思いますが、コロナによる苦境のさなかでのこの事態に社内がどのような状況になっているかと想像してしまいます。

一つ私が以前から考えていることがあり、JTBに限らず旧来型旅行会社全体の問題点として、デザインの大切さや「かわいらしさ」「かっこよさ」といった部分をないがしろにしている、あるいはそもそも気付いてもいない会社が多いように思います。身近な例では、パッケージツアーのパンフレットは似たようなデザインばかりで、消費者目線で言えば大きな違いは表紙の色くらいでしょう。

また、会社のロゴも、航空会社などでは使用ルールが厳格に定められていることが多いですが、旅行会社では画像ファイルが劣化したり微妙に色味が変わったりしているものを平気で使い続けているケースが散見されます。

消費財が世の中でどのように販売されているかを見渡してみると、商品そのもののデザインは当然のこととして、包装や店舗の内外装などがどれだけ入念に作られているかを考えさせられます。百貨店に入るような高級チョコレートブランドを例にとっても、顧客の購買意欲を刺激するのは味だけでなく、店舗や化粧箱や包み紙、手提げ袋などを含めた総合的な体験価値です。アパレルなどのブランドが持つ力の大きさも今更指摘するまでもありません。

旅行で「ジャケ買い」は難しいとしても、コモディティ化しやすいと言われ中身での差別化が難しい旅行業にとって、外見での工夫の余地はもっと脚光を浴びて良いはずです。

旅行会社ですから提供される旅行が素晴らしいものであることは当然期待されますが、配布される旅程表がInstagramで自慢したくなるくらいかわいいとか、ネームタグも使わないで取っておきたくなるほどかわいいとか、そういったことは実現不可能ではないうえに、それができれば相当な顧客ロイヤルティを獲得できるはずなのです。もちろん、前例がないわけではなく、こちらの会社は以前取材をさせていただいて以来、一度個人的に旅行をお願いしてみたいと思い続けています。

その意味で、旅行会社は「消費者から愛されようという執念」が他の業界の企業に比べて低いのかもしれないと考えてしまいます。冒頭のJTBも、担当者はあくまでもイメージのための資料映像と釈明されたようですが、悪いイメージを抱かせるくらいなら見せないほうが良かったわけで、世間一般の目にどう映るかを考えていればこんなことにはならなかったでしょう。個人が鏡を見すぎると嫌がられますが、企業としてはそんなことはありません。

上述の通りずっと前からこんなことを考えていて、前職在職中にはデザイン会社にアポイントをもらって話をしたこともありましたし、美術系の大学に相談に行ったこともありました。トラベルビジョンが主体となって動くには費用が高かったり手が足りなかったりしてそのままになってしまいましたが、「旅行業にデザインを」の思いは変わらず持っています。コロナ禍で業界的に余裕がないことは重々承知していますが、それでも未来の旅行業にとってそうした要素は「あったらいい」から「なくてはならない」ものへと変わっていくと予想しています。(松本)