少し前に何かのテレビ番組で、子どもたちが養蜂の体験学習をしたところ「花の一つひとつが美味しそうに見えてきて通学路が楽しくなった」というエピソードが紹介されていました。何かを知る前と後で「世界が変わって見える」のは観光の一番の価値だと思いますが、子どもならではの純粋な感性から出た言葉にその価値がよく表れているように感じます。

ここで重要なのは、着眼点や切り口、伝え方によって「何をどう知るか」が変化するということです。観光に関わる情報の多くがインターネット上で得られるようになっていますが、それを誰が発信しているかで信憑性も受け取りやすさも全く変わってきます。

例えば私が東京を案内するとして、リーズナブルに美味しいお酒と料理を楽しむ方法がテーマであればアイディアもあれこれ湧いてきて考えるのも楽しく、食の好みがゲストと異なっていなければきっとご満足いただけると自負しています。一方、スイーツとか建築とか「墓マイラー」とか、自分が興味のない分野は本や雑誌、インターネットで勉強する以上のことはお伝えできず、自信を持ってお勧めすることはできません。

「勉強」を仕事として突き詰めた先に優れたプログラムやホスピタリティができあがることは理解していますが、現代では熱意あるマニア、愛好家、熱狂者と簡単につながることができ、その方がハズレを引く可能性が低かったり安上がりだったりします。そして、世界各国の「同好の士」を私設ガイドとして確保し、旅行の出発前から一緒に旅程を計画できるようなウェブサービスも出てきています。

もちろん、そうしたシェアリングエコノミーやギグエコノミーの世界はハズレを引いた時のダメージも大きく、下手をすると犯罪の被害にあうことすらあり、安定した品質を約束する既存企業の役割も今後もなくなることはありません。とはいえ、Airbnbのスーパーホストのように新興プレーヤーたちも当然そうした課題には優先的に取り組むわけで、従来型ビジネスの運営者は結局こうした変化への対応は避けて通れないでしょう。

そうした中で今後取るべき道としては、個人としても会社としても「何かしら強みを持つこと」が極めて重要です。以前ある観光局が「何でも揃っている」ことをメッセージとして強調した際、ある業界紙の記者が「何でもあるは何もないと一緒だ」と切り捨てていたのですが、あの一言は今でも強烈に耳に残っています。個人にせよ会社にせよ「自分(たち)には何があるのか」と向き合わなくてはなりません。

そしてそれは必ずしも上述のようなSITである必要はなく、例えば安定した品質や安心感、あるいは高級感などであっても良く、それが消費者にとって説得力があれば良いのです。もちろん販売経路とか決済手段とか、コロナ禍での接触回避とか時代に合わせた変化も必要ですが、自分たちの強みを理解して正しく消費者に伝えられるサービス提供元は、どのようなプラットフォームでも生き延びていけるはずです。(松本)