6月1日の火曜日は、公園でシンガポール政府観光局のオンライン記者説明会を視聴してそのまま記事を書いたのですが、天候に恵まれて最高に気持ち良く、作業自体も極めて順調に進みました。取材し記事を書くようになってから10数年が経っていますが、仕事なのにこんなふうな感覚が許されるのかと衝撃でした。

コロナ前は、取材の会場に遅くとも5分前に着く方がいいだろうから何時何分の電車に乗る必要があって、そのためには昼食はどこでどうして、というようなことを色々と考えて行動しなければなりませんでしたし、終わったら終わったでオフィスに戻るか近くのカフェを探してうろつくか、と結構な時間のロスがありました。しかし、オンラインではネット環境さえ確保できれば気分次第で行きたいところに行くことができ、さらにパフォーマンスも従来より良くなったわけで、何という変化だろうと思います。

今回私が選んだ場所は住まいからそれほど離れていないただの都会の公園であったわけですが、自宅以外の快適な非日常空間でのリモートワークという意味で、これは業界で注目される「ワーケーション」の構図そのものでしょう。(英語圏では、「ワーク・フロム・ホーム(WFH)」から「ワーク・フロム・エニウェア(WFA)」への進化と表現されたりしています。)

イベントやミーティングへの参加者が移動しないというだけでも環境負荷の軽減に繋がりますし、主催者にとって全体的なコストも段違いに少なく済みます。コロナ後の世界でそうしたビジネスイベントや業務渡航がどれだけ復活するかは業界にとって目下の超重要課題ですが、何かの製品に実際に触ったり試食したりしないといけないケースはさておき、「ただ再開する」ことはまずないでしょう。というか、気候変動対策への要請が強まる中で、考えなしの再開はむしろあってはならない判断です。

また、遠方に住む友人との「オン飲み」のように、バーチャルには物理的には越えられない距離や壁を簡単に取り除ける強みもあります。その最たる例として、地球上に現在約78億人いるという人類のほとんどの人がおそらく死ぬまでに火星に降り立つことはできませんが、現在は精細な動画とともにかの星の音まで聞くことができます。

観光を「貴重な視聴覚体験」と定義すると、このようにバーチャルは旅行、観光の可能性を大きく広げますし、旅行会社の活躍の場も発想次第で拡大していくだろうと予想するところです。

一方で、リアルとバーチャルはもちろん0か100かという話ではなく、例えば以前ウェブミーティングを屋外でした際には通信が安定せず、それ以降は躊躇します。また最近JTBやKNT-CTの決算会見をオンラインで視聴したのですが、そういったシリアスな場では登壇者の緊張感やその場の空気感などから得られる情報も多いため、バーチャルイベントとしての品質は高くても物足りない感覚は拭えませんでした。また、結婚式なども、どうしてもバーチャルでなくては参加できない場合を除いて実際に集まることに価値が認められ続けるでしょう。

ということで話が錯綜してきましたが、バーチャルでは伝えきれない情報も扱えるリアルと、物理的制約を飛び越えるバーチャルそれぞれの利点を活用することがコロナ後の世界で求められる所作となり、イベントに関してはコストの問題はさておき「ハイブリッド」開催こそがニューノーマルになっていくだろうと予測するところです。(松本)