昨年4月以降、NDCを強硬姿勢で推進し旅行業界との対立を深めていたアメリカン航空(AA)だが、ついに方針転換の時を迎えたようだ。

もともと、AAは第1四半期の決算でライバルであるデルタ航空やユナイテッド航空よりも成績が振るわず、特にビジネス市場で他社に後塵を拝していたところ。具体的には、デルタ航空とユナイテッド航空がそれぞれ法人部門の収益が前年比14%増となったのに対し、AAは具体的な数値は明かさなかったものの「1桁台の半ばから後半」に留まっていた。

そして、先月の米Travel Weeklyの記事ではその決算説明会の場でCEOのRobert Isom氏やNDC推進を含む流通戦略をリードしてきたCCOのVasu Raja氏らが戦略について弁護する様子が伝えられていたが、この頃からAAが方針を見直す可能性を感じさせる記事が各誌で増加。

例えば業界メディアのThe Company Dimeは5月2日に「相対的な劣勢が明白となるなかでAAが“調整”を計画」と報じていたほか、旅行会社によるNDC対応によってマイル付与を差別する施策を緩和したり、同COOが数週間に渡って出勤しなくなっていたり(その際にはAAが退職を否定)したことも伝えられていた。

こうしたなかで、ついに同COOが来月で退任することが決定するとともにCEOが方針の転換について明言する事態となった。これに対してThe Company Dimeは、ラテン語で「私の罪」を意味し懺悔や自らの誤りを認めることを指す「Mea Culpa」という言葉とともに「AAが誤りを認める」と報じた。これによると、CEOは自社の営業・流通戦略が機能しなかったことを認め、現在は顧客企業やTMCの意見に耳を傾けており、さらにこの1年強で負ったダメージを把握するために経営コンサルのBain & Companyと契約したという。

他媒体も続々と報じており、米Travel WeeklyによるとCEOは「我々はムチを使いすぎた。もっとアメを投入し顧客が買いたい場所で我々のプロダクトを買えるようにしなければならない」と発言したほか、マイル付与の差別策も撤回した。この記事のタイトルは「トラベルアドバイザーの勝利:アメリカン航空、物議を醸したNDC戦略を廃止」となっている。またTravel Pulseによると、CEOは「代理店と法人顧客に与えた影響を後悔している」旨の発言もしているという。

とはいえ先月も書いたように、だからといって180度の方針転換は考えにくい。BUSINESS TRAVEL NEWS(BTN)の記事でも、「AAは実によく練られた戦略を持ちそれを実行している。昔のやり方には戻れない。退任が大きな変化をもたらすとは思えない」などとするAAの元幹部のコメントを紹介。

また、NDCについて航空会社や旅行会社、GDS、アグリゲーターが言いたいことを言い続けるばかりで「会議は踊る、されど進まず」状態が長年続いたのに対して、そのやりかたはさておき「誰かがしなければならなかったことをAAがした」との考えも少なくない。BTNはNDCについて渾身の特集を公開しているが、このうちの記事のひとつは「AAのNDC関連戦略が、米国を拠点とするTMC各社に火をつけたことは間違いない。今後の課題は、その火がロケットブースターとダイナマイトのどちらについたかだ」と書き出されている。

なお、このBTNの特集では、オラクルやセールスフォース、トヨタモーターノースアメリカなどの大手企業で業務渡航を担当する幹部に「AAの動きによって会社または業界にどのような変化が起きたか」「NDCの普及を妨げているものはなにか」「航空会社との交渉はどのように変化しているか」を質問。またNDCの普及状況についてデータを集め、さらにTMC各社の対応についても取りまとめている。

ちなみに航空・マイル系ブログのView from the Wingは、今回の退任について「割引をしなくても座席を埋められる、より低いコストでより多くの収益を得られるという賭け」にAAは失敗をし、CCOは詰め腹を切らされたと分析する記事を公開。そして同氏が極めて賢く鋭い人物であることから、どこかの航空会社のCEOとして戻ってきて大成功を抑えるかもしれないとも記している。