世界各国が我先にとウィズコロナ、往来再開へと舵を切るなか、旅行観光産業ではコロナ禍の次の大きな課題として人材確保の難しさが指摘されている。

新型コロナウイルスの影響により旅行がほぼ停止したなかで多くの企業が従業員の解雇や一時帰休、給与カットなどに踏み切るなどした結果、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の推計では2020年に世界全体で6200万人が職を失ったとされる。

それに対して入国制限の緩和とともに徐々に旅行需要も回復し、需要に対応するだけのマンパワーが足りていないことがすでに昨年の上半期から報告されているところ。例えば米国ではホテルの総支配人が客室を清掃したり、航空会社が客室乗務員にラウンジ清掃を打診したことなどが報じられていた。

また、それに対する採用と離職防止の策として給与や医療補助など雇用条件の改善や、約15万円の最新フィットネス機器をギフトとしてプレゼントしたり、調理スタッフに包丁やエグゼクティブシェフとの勉強会を提供したりする例を伝える記事もあった

しかし、半年以上が経過した現在もそうした課題を報じる記事は減るどころか増えるばかり。例えばSkiftの3月1日の記事では、マリオットが2019年末に17.4万人いた従業員を21年末には約12万人に減らしたこと、同様にヒルトンも17.3万人を14.2万人としたことを紹介。その上で両社ともに、自社を含むホスピタリティ産業がコロナ禍で取ったそうした行動が不信感に繋がって現在は採用や維持に悪影響を及ぼしていることを認めたと伝えている。

一方、旅行業界や航空業界でも英国では「過去最悪の人材不足」の只中にある。

そして、こうした「自業自得」はコロナ禍の人員削減だけでなく他の業界よりも低賃金という根本的な問題もあり、代わりに人材の受け皿となっているAmazonなどの企業との競合も求められる。

そのため、Travel Weeklyの英国版は金銭的な報酬だけでなく個人の成長やキャリア、「精神的な報酬」、サステナビリティなど、未来への取り組みも重要になると指摘。また、健康や安全に対する懸念、他業界でのワークライフバランスの充実といった課題もあるという。

米国では2月の雇用統計でレジャー&ホスピタリティ産業の雇用増が見られたものの、それでもコロナ前を9%下回っているところ。

Travel WeeklyのKuoniの取り組みを紹介する記事では、「他の旅行会社ではなく、Kuoniで働きたいと言ってもらえるようこれまで以上に注力していかなければならない」との幹部の言葉が紹介されているほか、Skiftの記事でも「宿泊料金に上限はない」「ADRが高くなってこそ労働者の賃金も上がる」として更なる待遇改善の必要性を指摘する声を取り上げている。

このほか、HOTEL NEWS RESOURCEの記事では、「より少ない人数でより多くのことをする」ためのツールの模索や、社内での対応からアウトソースへと切り替える企業の動きも紹介されているところ。リモートワークの焦点の一つで、「優秀な人材は必ずしも地元にいるとは限らない」と新たな可能性にも言及している。