航空券流通の刷新を意図して立ち上げられた「NDC(New Distribution Capability)」。旧来型のEDIFACTに変わる流通の規格であり、2012年の国際航空運送協会(IATA)年次総会で初めて公にされたが、それからほぼ12年の現在も航空会社側が期待するほどの進展は見せてなく、むしろ最近は旅行業界との対立が深まっているのが実情。その軋轢の震源地にいるアメリカン航空(AA)についてはこれまでも何度も取り上げてきているが、実際の現在地としてはどのようなところなのだろうか。

進歩と足踏み

この点についてBUSINESS TRAVEL NEWSは今月上旬に興味深い記事を掲載。UATP(Universal Air Travel Plan)のカンファレンスに集った航空会社の幹部らが現状や今後の見通しについて意見を交わしたことを伝えている。

例えばエア・カナダからの出席者は「EDIFACTは技術として終わりが近い」とし、何十年も前に開発されたEDIFACTは航空会社だけでなく旅行会社にとっても目的に合わなくなっているため「2025年になるか5年後から7年後になるかは別にして、寿命を迎える」と断定。

NDC浸透の現在地については、推進の急先鋒の1社であるフィンエアーなどが目覚ましい進捗を報告した一方、NDCを契機としたGDSサーチャージの徴収で口火を切るなど最初期からのリーダーであったルフトハンザグループは、「この数年間で我々はもっと差別化したコンテンツを提供できたはずだった」「我々は自分たちが約束したことを提供してこれなかった」とこれまでの道のりが「でこぼこ道」だったことを是認。しかし、そのルフトハンザでも「現在の状況に満足している」といい、2024年(こそ)は「グループにとっての“year of NDC”」となるとして大きな進展も近々に控えていることを示唆したという。

業界側でも大手企業やアグリゲーターを中心に対応は進んでいるところで、Flight Centre Travel Group傘下のTPConnectsでは2023年のNDC経由の予約は約150万件となり今年はその2倍から3倍へと増加が見込まれる状況。また、業務渡航を主軸とするテクノロジースタートアップのSpotnanaも創業時点からNDCを前提としており、直近でもエミレーツ、エールフランス/KLM、ブリティッシュ・エアウェイズとの接続が完了予定。最近では2日間で作業を終えられた案件もあるなどスムーズに進んでいるという。

とはいえ輝かしい話ばかりでもなく、旅行観光産業に特化したコンサル企業Hudson CrossingのパートナーはNDCで明確な進歩を遂げられている航空会社は少数派に留まると分析。世界で400から450の航空会社があるなかでNDCに取り組み始めているのが60社程度であり、そのなかでもAPIを確実に活用できているのはごく一部としている。

課題のひとつは、(当ブログの読者にとっては自明だが)旅行会社との連携、特にAPIのサービシングと呼ばれる分野(実際の旅行サービスの提供に必要な機能)が不完全である点で、ハーンエアのCEOはNDCの接続をSpotnanaのように数日で完了できるのは極めてまれで、ほとんどの旅行会社にとっては数週間や数ヶ月どころか数年間を要すると指摘。「心臓移植とまではいかなくても肝臓移植」レベルの大事だと語ったという。また、サウスウェスト航空が最近になってGDSでの流通を開始するなど販売戦略上でのGDSの重要性は当面続くとの意見も紹介されている。

アメリカン航空VS旅行業界は戦線拡大

AAの強硬姿勢に対しては、米国トラベルアドバイザー協会(ASTA)が昨年8月に米運輸省(DOT)に是正を要請し、その翌月には英国のビジネストラベルアソシエーション(BTA)がASTA支持を表明していたところだが、Travel Pulseによるとここにきてさらに他の団体もAAと対峙する姿勢を打ち出しはじめている。

新たに声を上げたのはThe World Travel Agents Associations Alliance(WTAAA)、Association of Canadian Travel Agencies and Travel Advisors(ACTA)、Foro Latinoamericano de Turismo(FOLATUR)で、特にNDC対応度合いによってマイル付与を差別化する施策について旅行会社だけでなく消費者である旅行者たちに損害を与えると批判。

具体的には「AAは悪意を持って、我々の大切な会員(である旅行会社)や、そのサービスを信頼して利用している何百万人もの消費者を犠牲にして自社の利益を水増ししようとしている」「この強引な戦術は、流通を分断してコストを上昇させ、複数の航空会社のサービスを比較しようとする消費者への透明性を低下させる」「AAは、その立場を利用して消費者の選択肢を制限することで、価格の上昇、技術革新の阻害、旅行業界の活力低下につながる行為を行っている」「ここで阻止しなければ、AAはますます差別的なやり方を続け、さらに寡占化した航空輸送市場において他の航空会社も必ず追随するだろう。米国内外の航空旅客は、こうした反競争的なビジネス慣行によってますます悪影響を受けることになる」などと訴えているという。

AAはやや譲歩、マイル制限開始日を延期

こうしたなかでAAは、NDCへの対応を進めない旅行会社(=「preferred travel agency」から漏れた旅行会社)からの予約についてその日以降はマイルなどを一切付与しなくするとしていた5月1日の期日を7月11日に延期。またその「preferred」認定の条件であるNDC経由の予約比率を全体の30%とする期日も4月21日から6月5日へと見直した。

とはいえ、そのNDC比率を10月31日までに50%、2025年4月30日までに70%とする期日は据え置いているところ。また、BUSINESS TRAVEL NEWSによると、そうした比率がどのように集計されるのかは明らかでない点なども懸念されているという。

デルタ航空も近くNDCテスト開始

米Travel Weeklyによると、米系大手3社のなかで最もNDCに消極的だったデルタ航空も近くNDCのテストを開始する計画だが、同時にGDSサーチャージの徴収やEDIFACTチャンネルからの早急な運賃引き上げの予定はなく販売戦略も変わっていないと明らかにするなど、旅行業界との対立を避ける姿勢を強調している模様。

ただし、それでもデルタ航空の担当者は「EDIFACTの技術を使用したマーチャンダイジング能力についてデルタ航空は限界に達した」とし、今後の旅行会社経由での流通をより良くするためにはNDCへの進化が不可欠であるとも明言したという。