日本を含む世界各地でオーバーツーリズムが大きな問題となっているのは周知の通りで4月にも近況をまとめたばかりだが、その後も関連する話題は続々と届いている。京都での私道通行禁止や富士河口湖町の「黒い幕」ももちろん海外メディアで取り上げられているが、観光の弊害は世界共通の悩みとなっている。

例えば、少し前だが米Travel Weeklyによると世界の中でも特に明確な対決姿勢を打ち出しているアムステルダムは新たにホテルの総数を制限することを決定。既存ホテルが閉業しない限り新規の開業は認められず、また新規開業が可能になった場合も閉業するホテルよりも現代的でよりサステナブルであることを認可の条件とするもので、市中心部を離れた場所での開業も促していく。すでに計画が進められている26軒は規制の対象外となる。

アムステルダムは、これまでも市内ホテルでの年間総宿泊数への上限設定やクルーズターミナルにおけるクルーズ船着岸の禁止または大幅な制限など大胆な対策を模索してきており今回の制限もこの一環と言えるが、さらにCruise Hiveによるとリバークルーズ船についても寄港を大幅に制限する計画を決定。2028年までに寄港数を半減させて年間1150回までとする。

リバークルーズでの寄港は2011年に1327回だったところから2023年には2125回へと増加。結果として年間50万人の旅客が市を訪問し、汚染や混雑などオーバーツーリズムの弊害を拡大したとしている。リバークルーズ船の制限では、環境負荷などを条件とすることも選択肢となっているという。

こうした急進的とも言える政策に対しては当然反発や批判もあり、例えばリバークルーズの制限についてはそもそも多くの船がアムステルダムを母港としており、前後泊を考えれば市の経済への貢献度合いは大きいこと、またドラッグやアルコールを接種して羽目を外す「招かれざる客」とは客層が異なることなどが指摘されている。

住民感情は悪化の一途

とはいえ、市民や企業のすべてが満場一致で合意できる対策は(存在し得たとしても)たやすく見いだせるものではなく、その間にも住民の不満は鬱積し続ける。

前回のまとめでも西オーストラリア州の小さな町で「HOMETOWN NOT TOURIST TOWN!」という抗議の看板が掲げられたことを取り上げたが、The Independentによるとカナリア諸島のテネリフェでも観光産業への不満が爆発。観光産業によって地元の人々の生活が不自由にされ環境的にも持続不可能なものにされていると抗議活動が展開され、一部ではハンストまで起きているという。同地を訪れる旅行者の数は2023年には1390万人に達したが、住民の数は220万人に留まる。

またカリブ海のアルバでも「No More Hotels」「Land Back」などと訴える抗議活動が激化。当初は平和的な内容だったが警察などの高圧的な態度によって急速に激しさを増しているという。こちらは植民地としての歴史も背景にある模様。

ちなみに、アムステルダムやテネリフェでしばしば問題の原因として批判されるのが英国からの男性旅行者で、特に結婚間近の男性を祝う男性だけのパーティー(stag party/bachelor party)でのハメ外しがやり玉にあがることが多いが、express.co.ukによると、今回の抗議活動の舞台となったテネリフェは確かに人気のデスティネーションであったものの、今年はそうした住民感情の悪化を受けてより歓迎ムードの強いベニドルムへと向かうグループが増えているとの情報も。地方分散はオーバーツーリズム対策の主要な選択肢であり、こうしてみると抗議活動はその実現の方策として有効と言えるのかもしれない。

ベネツィア入場料開始、ハワイで民泊制限も

抗議活動の話題では、ようやく日帰り旅行者をターゲットにした入場料の制度が動き出そうとしているベネツィアでもその制度自体を批判する活動が起こされているとのこと。Euronewsによると、グループは「住宅、権利、尊厳」「ベネツィアは博物館ではない」と書いたポスターを掲げて抗議。「観光を中心に据えたビジョン」ではなく、市民のための住まいやサービスを前提とした政治や行政の実現を求めており、入場料収入がそうしたサービス向上に繋がるとの主張も焼け石に水と批判しているという。

なお、このように市民のための適正な価格での住居確保が難しくなるのはオーバーツーリズムの主要な類型。ハワイではバケーションレンタルの規制が議論されてきたが、最近ついに完全な禁止を含めて規制を郡ごとに決定できるようにする法案が可決し知事も署名。懸念の声も大きく法廷闘争も予見されているものの、マウイ島では早速2026年1月までに7000室超のバケーションレンタルを廃止する案が示されているほか、オアフ島でも最短宿泊日数を180日とする案も出されたという。

また、上述のカナリア諸島の抗議活動についても、TUIのCEOは住宅不足が問題の本質と指摘しているという。