先週の「UG客」に関するコラムを書くにあたって、航空会社やホテルが招かれざる客を業界横断的に拒否する方法についてあれこれ考えてみたのだが、そもそも米国で報告されているような、航空機内での目を疑うようなトラブルが日本ではそこまで起きないのはなぜだろうと疑問が浮かんできた。
実際に発生件数が少ないのか、それとも起きてはいるがニュースや話題になっていないだけなのか分からないが、最近は誰もがスマホを持っており、ピーチの機内で降機処分になった人物のように何かが起きれば記録が残る時代だろう。となると、国民性の差が理由ということになるのだろうか。
一方、ホテルの側に目を向けると、ちょうど最近も土下座要求の動画が話題となったところだが、これまでも問題を起こす客の話を見聞きする機会は多く、筆者もサービス提供側として諸々の事例を目にした経験がある。
もし航空よりホテルの方がトラブルの発生確率が高いと仮定すると、それはなぜだろうか。海外の消費者も同様なのか、船だとどうだろうか、と色々気になるが、一つ思いつくのは、日本人が航空会社を特別視している可能性だ。
「スッチー」という死語のように客室乗務員は色々な意味で特別視される存在だし、またパイロットの社会的ステータスも、ホテルの日々の運営に関わる現場スタッフが比肩するのは難しい。そういった憧れとか一目置く感覚が心のなかにあるから、空港や機内で上から目線の暴言を吐きにくいのかもしれない。
もちろん筆者が知らないだけで航空もホテル並みに日々トラブルが発生しているかもしれず、そうであれば日々それらと戦っている皆様にお詫びしなければならない。(26歳の日本人女性がアメリカン航空機内で騒いでダイバートを引き起こし逮捕という事例もあった。)
しかし、先程のホテルでのトラブル動画では当該人物が「俺、不動産会社の社長だけど!ホテルマンのくせに!偉そうに!」と見下す心理をあらわにしているが、「パイロットのくせに!」「スチュワーデスのくせに!」という暴言を想像してもあまり現実味を感じない。もし冒頭に触れた航空機内のトラブルも含めて、日本での実態や海外との差などをご存知の方は是非お教えいただければ幸いだ。
なお、ホテル出身者としては、この「ホテルマンのくせに」という言葉に強い悔しさと憤りを覚える。筆者がホテルの現場にいたのはインバウンドブームの気配すらなかった頃なので現在の感覚は分からないが、今でも覚えているのは、専門学校や大学を出て夢を抱いて就職してきた若者たちが、数年後に「サービスは好きだけど」と言いながら給与が少なく先が見えないと辞めていっていた虚しさだ。
先行きの不透明さや業界の未来の不安感はコロナ禍でますます高まっているところで、諸外国ではすでにコロナ禍の人員削減後の労働力再確保が大きな課題となっているが、日本でもこれから相当深刻な問題として立ちはだかってくるだろう。馬鹿な迷惑客には見下され、給与には夢がなく、しかも感染症や天災といった外的要因によってこれほどの打撃を受けてしまう業界なのだ。
前職で旅行関連の求人広告を扱う際によく感じていたのは、「この条件であなたの子や孫、親戚の子どもらに勧められますか?」という疑問だ。ホテルに限らない話だが、この問いに対して多少の言い訳つきででも「いいと思うよ」と言えるようにならない限り、業界の地位向上や観光立国は不可能ではないかと思う。その意味で、コロナ禍からのリカバリーにおける業界全体の行動が問われていくことになる。(松本)
>日本人が航空会社を特別視している可能性
共感しました。
客室乗務員採用試験対策のための専門学校まである国は
世界広しとも日本だけではないでしょうか。
海外在住のため、外資系キャリアも頻繁に利用しますが、
男性と女性の客室乗務員の割合はほぼ半々が普通です。
親切やおもてなしをサービスの前面に据えているように感じる
日本系キャリアの不思議なまでの女性乗務員率の高さは
リスクマネージメントこそが機内での重点と感じる私にとって、
特に今の時代、安心感をおぼえられないものとなっています。