緊急事態宣言が明けた。

自宅の周辺ではもとから半分くらいの店が(表向き提供なしと書いていても)アルコールを出していたため個人的にはあまり変化を感じないが、また東京はあいにくの雨だったので繁華街の様子も分からないが、きっと多くの飲食店が営業を再開し復活に目を向けているだろう。旅行の分野でも国内旅行予約が増えているということで、制限緩和の話もありトンネルの先の光が感じられる。是非ともこのまま前に進んでほしいところだ。

ただ、約20ヶ月も続くコロナ禍で期待は裏切られ続けており、このまま順調に行ってくれるのかと疑心暗鬼にもなる。きっとこれから、飲み屋のせいかどうかは別にして陽性者数がまた増加に転じるはずで、その時にこれまでと同じことの繰り返しはつらい。

こればかりは願うしかないが、新政権の幹事長人事などを見ていても変化が期待できそうな雰囲気はなく、良くも悪くも――ワクチン接種率などこれまで順調だった分野も臆病で場当たり的な判断も――変わらない可能性が高いのではないか。

そうした中では、先週の当欄のように業界の状況や望みを強く世間に表明していくことが重要だと思う。「完全に旅行会社目線だけの意見」だというご批判のコメントも付いたが、当サイトは旅行観光産業関係者のために存在するのだからそれで構わない。声を挙げなければ誰にも伝わらないわけで、業界全体を引き上げるためには主張が必要だと信じている。(その意味で業界団体の、旅行業で言えばJATAとANTAの存在意義も問われる。)

また、訪日を扱っていた施設が外国人の受け入れに及び腰という状況も報告いただいた。それについてはウィルスというより周囲の目への恐れの方が強いような気もするが、エジプトのテロ後には団体需要が戻るまで10年かかったから旅行マインドをどうするかが課題だというご指摘は重い。これについては一朝一夕で変わるものではなく、個人的にはコロナで若者の意識が変わるのではないかと期待しているが、今のところ根拠のないただの期待でしかない。

「業界全体を引き上げる」と書いたが、一つ気になることがある。飲食店の窮状はメディアで取り上げられることが多いのに対して、旅行会社はどうだろうか。飲食店は、先述の通り要請を無視して酒を提供できるし営業時間もお構いなしで店によっては大賑わいとなり、日を追うごとにそうする店も増えていた。次の緊急事態宣言となれば、きっとさらに増えるだろう。

しかし、アウトバウンドとインバウンドの業界は同じようにルールを破る覚悟があっても売れるものすらない。国内旅行だって、全日空と日本航空のお盆の旅客数は19年の4割程度に留まった。それなのに同情論がほとんど見られないのはなぜだろうか。去年のGoToで悪目立ちしたから?それとも、三大欲求の一つである食と旅を並べて考えようとするのが間違い?

一つ心配なのは、旅行業が飲食ほど必要だと思われていない可能性だ。旅行会社の具体的な仕事内容がそもそも外部からは理解されにくい上に、飲食に比べて接点が少なく飲食のように「あの店」や「あの人」が存在しないから、結果としてそのサービスがなくなるかもしれないという心配も同情も薄いのではないだろうか。「あってもなくても変わらない」、もしそんなふうに思われているとしたら問題の根深さはコロナどころではない。(松本)