アウトバウンドにせよインバウンドにせよ、海外との行き来を前提とする旅行に関わる我々にとって、最大の関心事は「いつになったら隔離なく往来できるようになるのか」だ。もちろん考えなくてはならないことは他にもたくさんあるが、行ったり来たりができない限りできることはほとんどなく、逆にそれさえ決まればそこから逆算して様々な計画も立てられるわけで、現在のこの業界にとってこれ以上の問題は存在しないと言える。

例えるなら現状は、喉が乾いている自分の手の中に水の入ったボトルがあるのに針の先くらいの穴しか開けられないようなもので、非常にもどかしい。しかも世の中にはそう遠くないところに別のボトルもあり、手元のそれにこだわらなければ乾きを癒せる可能性が高く、その事実が頭をちらつくごとに不安やフラストレーションが増していく。

そしてこんな状況だから、「きっと大丈夫だ」と前向きになったり「いつまでもこの停滞が続くのではないか」と苦しくなったり、精神的に不安定であるのが今の旅行観光産業のリアルではないか。年齢や経験にもよるが、なんでこの仕事を選んでしまったのかと思ってしまうのもごく自然で、そうならずに旅行・観光業やサービス業への愛を語り続けられるのはむしろ稀有なのではないかと感じる。

遅れをとる国境開放計画

であるがゆえに、さっさと政府には明確な方針、計画を示してほしいところだが、他の国々がここに来てかなりはっきりとアクセルを踏みはじめたのに対し、残念ながら日本の動きはそうは映らない。当サイトで今週取り上げただけでも、タイやベトナムオーストラリアが期日を明確にした具体的な再開計画を発表しているところだが、日本の制限緩和は明らかに及び腰。選挙もあるので本格的な動きはまだ先になるのだろう。

もちろん、春頃に「どうせそんな」と感じられたワクチンの広範な接種が、今や米国を逆転していて、もう少しすれば欧州各国にも届こうかという勢いを維持しているように、不言実行で年末頃にはまた予想を裏切ってくれているのではないかという期待も持てる。しかし、とはいえ、やはり、我慢の限界をとうに過ぎている旅行観光産業の一員として、あと1、2ヶ月間も何の情報もなく「栓が閉じたまま」待ち続けるのは苦しすぎる。

しかも、冷静に考えれば、日本に限らず世界各国の判断は科学よりも政治的な理由によって下されがちであり、ミューやらカッパやらの変異株もメジャーデビューを待っていることも考慮すると、先行する各国の開放方針だって危うい。

需要はいずれ戻るが…

こうして考え始めると、今の筆者はネガティブな方向に思考が行くようだ。

旅行需要は「pent-up demand(積み上がった需要)」と言われる通りキャップの締まった炭酸水のボトルのような状態であり、出口ができればドバドバと溢れ出すのは間違いない。コロナ前に動きの目立っていたシニア層は躊躇するとしても、少し時間はかかるかもしれないが若者のパスポート保有率、出国率はコロナ前より高まるはずだ。

結局のところ旅行の再開の時期を予言できるだけの根拠は揃ってなく、むしろワクチン頼みの現状を考えると悲観的に考えておくのが安全ではあるものの、いざ回復期に入ればその勢いはおそらく事前の想定を超えるはずで、これからは我慢比べ、チキンレースだ。

我慢して残ったプレーヤーたちの取り分が増える可能性は高いが、いつになるかも分からないし、絶対でもない。「別のボトル」を選ぶかどうかは各個人の判断であり、個人的には現在期待されている各国の緩和方針が年内にどこまで実現するかが重要な判断基準となるだろうと予測している。この希望が明確に砕かれた場合、「心が折れる」人の数が増えるのではないかと思う。

そしてその中でもう一つ年内にできることは、さっさと「ウィズコロナ」へと踏み出すよう、政府と世間に対しエゴイスティックに強く要求していくこと。「お上」ありきで唯々諾々と従ったり、いつまでも下駄を他人に預けておいたりするのは間違いだ。(松本)