国境なき医師団によると、米国などの高所得国が余剰ワクチンを蓄える一方で低中所得国は接種が遅れており、これによって国際観光産業の本質的な回復が遅れる可能性がある。

高所得国ではすでに60%以上がコロナワクチンの接種を終えているが、低所得国(LIC)では3%以下の人に留まる。こうした中で高所得国は、高齢者など高リスク層へのブースターショットの分を除外しても8.7億回分(米国だけで4.9億回分)のワクチンを余剰に抱えており、これを低中所得国に再配分することで100万人近くの命を救うことができるという。

しかも、G7とEU諸国だけで年内に2.4億回超のワクチンが期限切れで廃棄される見込みであるといい、国境なき医師団では「世界中の人々が無防備な状態でいればいるほどより多くの命が失われ、より致命的な新しい変異株が定着する可能性も高くなる」「コロナ禍を本当に終わらせたいのなら、余ったCOVID-19ワクチンを全世界に再分配することを、直ちに公的かつ具体的に約束しなければならない」と訴えている。

ワクチンを途上国などに配分するCOVAXの仕組みはあるが、各国の動きが鈍く、またワクチンを製造する製薬会社についても国境なき医師団は人命より収益を優先していると批判している。

旅行観光産業もこうした不均衡に無関係ではなく、このままであれば低中所得国は国民が必要な抗体を得られていない段階で経済のために観光の受け入れを再開することになり、結果として新たな変異株が猛威を振るってまた世界中の旅行が停止することも考えられる。

旅行業界では、エクスペディアが予約件数に応じてユニセフに寄付をする取り組みを実施しているものの、焼け石に水の状態。余剰ワクチンをため込んでいる国は米、英、独、仏、カナダ、豪、オランダ、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーの順といい日本は入っていないが、状況が改善しなければ旅行を自由に販売できる未来が更に遠のいていく可能性は十分にあり、まったく他人事ではない。