入国時の隔離が3日間に短縮されるらしい。10月1日に14日間が10日間となってから1ヶ月ちょっとでの再短縮であり前進であることは間違いないのだが、旅行観光産業で息も絶え絶えの立場としてはまったく不十分で、ほとほと嫌気が差してくる。

10日間になった時にも書いた通りだが、遅すぎるのだ。諸外国はウィズコロナへの切り替えを急ぐ姿勢が海外旅行需要の回復に繋がり、業界内でも明るさを感じさせるニュースが増えている。

一時は要塞と呼ばれるほどガチガチの制限を課して業界関係者や旅行好きの間で同情すらされていた豪州は、あっという間に方針転換して開放の先頭集団に入っているし、スペインは9月に470万人に迫る外国人旅行者を受け入れ、2019年の880万人には遠く及ばないとはいえ前年比は4倍増となり、2022年にはコロナ前の水準を回復できる見通しという。これに対して我らが日本は3日間と言ってもビジネスや留学などに目的を限定し、観光は未だ蚊帳の外だ。

一体この差は何なのか。鶏口牛後と言うが、鶏の後ろにすら隠れようという情けなさではないか。日本人は鈍重で損得勘定もろくにできない愚かな人間の集まりなのだというなら諦めもつくが。

日本で感染拡大が止まらないとか、ワクチン接種が進んでいないといった状況なら理解できるが、まるでそんなことはない。また、14日間を10日間にしたことで何が得られたのか、3日間とするのはどのような理由か、といった検証も、少なくとも国民の目には全く見えてこない。これで心穏やかに受け入れられるはずがない。さらに、これほど合理性なく観光がないがしろにされているのに、業界から批判も怨嗟もほとんど聞こえてこないこともまた理解に苦しむ。官民が力を合わせてというつもりなのかもしれないが、批判や検証なくして改善があるだろうか。

ロイターは、外務省管轄の国際交流基金が海外から受け入れた日本研究者が、最長15日間も隔離用ホテルで閉じ込められることになっていると報じたが、なぜ10日間でないのかよく分からない。逆に緊急事態宣言中の9月には、音楽フェスティバルのために来日したDJの隔離期間がたったの3日半だったことが分かり批判を浴びたが、一体どういう基準なのか。

個別の判断についていちいち説明できないのは仕方ないが、隔離の継続によって最も悪い影響を受ける我々旅行観光産業の関係者が納得でき、未来に目を向けて準備を始められるような情報発信をしないでいい理由はないはずだ。

諸外国では旅行需要の回復とともに旅行会社やホテルで人材確保が問題になっている。コロナ禍で業界を離れていった労働者が戻ってこないのだ。さらに、これまでの2年近い惨状を見た学生たちが、例え観光を学んでいても別の業界を志してしまう危機感も共有されており、業界として若者に向けて「旅行観光産業での仕事が単なる稼ぎ口(job)でなく未来を賭けられる職業(career)である」ことを積極的に伝えていかなければならない、という意見も出てきている。

日本でも多くの仲間たちが業界を離れていっており当然これから同じ轍を踏むことになるはずだが、こんな情けない状況で本当に前途ある若者たちに人生を賭ける価値がある仕事だと言えるだろうか。日本医師会会長が「せっかく減ったのだから緩和なんかして水を差すな」と不遜な発言をしたそうだが、水を差しているのはどちらか。「観光立国」の御旗も、担い手がいなければただの布切れになってしまうだろう。(松本)