日本でも3回目の接種が始まるなど先進国で「ブースター接種」が進んでいるが、低所得国では1回目の接種すら満足に始まっていない。このままでは旅行観光産業の本質的な回復が損なわれるリスクがある。

The New York Timesは12月9日付で「ブースター接種はワクチン不平等を深めるか」と題した文を掲載し、世界保健機関(WHO)の専門家による「ブースター接種がワクチンへのアクセスにおける不平等を悪化させるリスクがある」とのコメントを紹介。

そして、Our World in Dataのデータを引用して全世界で接種されているワクチンの約73%が高・中所得国に集中し、低所得国では0.8%のみに留まることも示した。さらに、世界各国のブースター接種は低所得国における1回目接種の6倍のペースで進んでおり、低所得国では医療従事者や高齢者などの分も不足しているという。

こうした状況で、不平等性の是正のための「COVAX」の仕組みもあるものの、期待される成果は実現できてなく、また日本国内では不平等是正の必要性を指摘する声も少ない。

しかし、このままでは接種の進まない低所得国で感染が止められず、そうすればオミクロンのような新たな変異株発生とそれによる国際旅行停滞のリスクが残り続ける。

ロンドン・ヒースロー空港のCEOは「懸念すべき変異株が出てくるたびに経済を止めることはできない」と主張したが、日本は流入を今のところほぼ防いでおり、入国禁止決定の脊髄反射的な素早さが世間の支持も得てしまっているため、今後も変異株が出現するたびにハワイアン航空CEOに「カオス」と揶揄された即座の入国制限が課される可能性は高い。

これは、この業界にとっていつどのような条件で爆発するか分からない爆弾のようなもので、そんなものを抱えながらまともな商売ができるはずがない。その状況で我々にできることは、まずはこれまでも当欄で書いてきた通り「入国制限の内容や決定プロセスの改善を求める」ことと「補償を求める」ことだが、もう一つがワクチン接種の不平等是正だ。

旅行観光産業でも、エクスペディアの副会長兼CEOが業界内の経営者らに対し途上国での接種を自分たちで支援しようと呼びかけ、同社としてもグループのアプリで予約が入るごとにユニセフに寄付をするキャンペーンを実施していたり、またヴァージンアトランティック航空(VS)はプライオリティパスのコリンソンと太平洋アジア観光協会(PATA)と共同で、世界保健機関(WHO)の「Go Give One」キャンペーンをサポートするグループを立ち上げるなど、様々な取り組みが始まっている。

VSのグループは広く参画を呼びかけており、日本の団体や企業も組織の規模に関わらず是非検討してみてはどうかと思う。特に旅行会社は醜聞が続いているところで、日本旅行業協会(JATA)などにとっては、グループに入らずとも何らかの支援をすることで汚名をそそぐことにも繋がっていくのではないか。

また、個人であっても同グループの特設ページからはペイパルまたはクレジットカードで寄付が可能だ。5ドルで1回の接種をまかなえるらしい。筆者も、些少ながらできる範囲の寄付をした。


ワクチンの不公平性は他人事ではなく、結果として国内外の旅行観光産業の首を絞めることとなる――そのことを改めて強調して本稿を終えたい。(松本)