2年にわたるパンデミックの封鎖から世界が再び解き放たれ、各国の消費者がようやく再び旅行できるようになった今、世界中の航空会社がかつてないほどの需要に対応しようとしている――これは米国の旅行サイトTravel Off Pathが今週掲載したある記事のリード(導入部)の文を意訳したものだ。

リードというのは、文章の冒頭でその文章がこれから何を伝えようとしているのかを明示し読者に「それなら読んでみよう」と思わせる重要な役割を持つ。そして「現状はこうだが(既知の情報/確定情報)、今後はこうなる可能性があるぞ(未知の情報/不確定情報)」といった書き方をして、読んでもらいたい後半部への関心を掻き立てる形を取ることが少なくない。

上述のリードもまさにそれなのだが、注目はむしろ前半の「2年にわたるパンデミックの封鎖から世界が再び解き放たれ、各国の消費者がようやく再び旅行できるようになった」という部分。少なくともこの文章を書いた記者は、世界全体で旅行に関するコロナ禍はもはや過去のものだと捉え、読者もその認識を共有していると信じているのだ。

そしてこうした書きぶりは世界中のメディアで増えているが、日本は「解き放たれ」る兆しが微かに感じられる程度。時期が来れば日本でもこういう文章が溢れかえることになるだろうが、それはいつになるだろうか。

日本人の海外ツアーは前触れも祝報もなくいつの間にか再開が決まっており、予想通り出発の様子の取材案内も届き始めたが、訪日は今のところ気配もなく、国からは何がどうなったらどうするというロードマップは結局示されていない。そして一方では、「収束」ではなく「終息」するまでマスク着用はなくならない、などと馬鹿げたことを日本医師会の会長が発言したりしている。

ロードマップが示されないということは、政治家の言う「適切な判断」次第ですべてがひっくり返りまた元の木阿弥になるということだ。現在は多くの業界関係者が旅行再開の準備をしはじめているはずだが、それも突然無駄になるかもしれない。

これまでも何度も書いてきているが、こうした扱いに対する不満が業界内から湧き上がってこないことがコロナ禍で一番の不思議だ。文句は言ってこないだろう、選挙には影響ない、と舐められているからこういう処遇になると思うのだが、そもそも業界諸氏に不満はなく今のまま耐え忍んでいれば問題ないとお考えなのだろうか。

このような苦境に身を置かざるを得ない時に重要なのは、もちろんその日その日を生き延びることが一番だが、その次は後日同じような状況となった時にダメージを極力小さくし素早く回復するための教訓や戦術を体得しておくことではないか。「苦しかったが◯◯を得られたことは大きい」と言えてこそ危機が無駄にならないのではないのか。

政治家や役所や業界団体が頼りにならないとか、当サイト含め業界メディアが不甲斐ないとか色々あると思うが、それを含めて状況をどうにかできないのか真剣に考え、少しでも周囲と意見を交わすことから変化は生まれるはずだ。青臭いと思われるかもしれないが、成熟した方法で解決への糸口が示されていればこんなことは書いていない。しかもコロナ禍が今この瞬間に無くなったとしても、人的サービスの価値論やサステナビリティなど問題は山積している。

…とそういうわけで、より良い未来に向けて何かしたいという意欲をお持ちの方々のために、当サイトとメルマガを通じて組織を越えた自由闊達な意見交換や人脈形成のためのプラットフォームを作りたいと思っている。いきなり交流会というよりひとまずオフ会程度でまずはメルマガをご愛読いただいているなかからお声がけするつもりだが、ご興味をお持ちいただけるようであればこちらにご連絡いただきたい。(松本)