業務渡航需要の行方を巡ってはコロナ禍を通して悲観と楽観が交錯し続けてきたが、その状況はコロナ禍がほぼ過去のものとなりつつあってレジャー需要は力強く回復している現在でも変わらず、むしろ景気後退の観測が出張の見通しを暗くしているようだ。

最近では、例えば英Travel Weeklyが掲載した記事で、やはり企業側の幹部は完全な回復はしないと考えていることが紹介されている。大手企業の業務渡航の責任者らが匿名で意見交換したものといい、これによるとグローバル展開するコンサル企業の業務渡航部門のトップは「財務が最優先になった。顧客訪問など収益に繋がる限り出張は認められるが、それは全体の60%から70%。残りの海外出張は目的が必要」とコメントしたとのこと。

IT・情報分析分野のグローバル企業の業務渡航責任者も、「海外ミーティングの予算は70%が上限となっている。航空運賃が上昇しているのでその影響もあるだろう」と指摘。管理職は出張者の数を調べて削減に努めているという。航空運賃については、燃油価格上昇や労働力不足、機材不足などにより2023年に出張需要比率の高い路線で最大25%高くなる可能性も指摘されている

もちろん出張旅費の問題だけでなく、二酸化炭素排出量削減の社会的要請も足かせとなる。大手銀行の担当者は、「出張は企業の排出量の20%以上を占めることもあり得る。出張者が排出量について考慮するようにならなければ企業の目標達成は不可能」と発言。来年にカーボンバジェットの導入と鉄道への移行を検討している会社もあるという。

11月にトラベルマネージャーとバイヤーを対象に実施された調査では、2023年の出張予算について今年よりも増えると答えたのが約半数であった一方、減少するとの回答が4人に1人の割合。また40%は、会社との間で出張のROIについて議論している。

そして、これまでは全体的な構図として出張に関わる航空会社やTMCなどがおそらく期待も含めて中期的には完全回復と見ている一方、上述のように出張者を送り出す企業側や第3者による調査や分析では悲観論が強い傾向だったが、ここにきて前者でのトーンダウンも出始めている。

例えば最近では、ユナイテッド航空CEOが出張需要は頭打ちになったことを認める発言をしたことも一部で話題に。ここでは、ワーケーションやブレジャーといった新しい働き方もあって売上は伸びているものの出張は回復が止まったと発言した(ただし、運賃の上昇なども踏まえて「ほぼ過去最高の利益率」に戻りつつあるなど経営自体は順調とのこと)。

また、最近ヒルトンはSkiftで「トラベルマネージャーが注視するべき3つの新たなトレンド」と題した記事広告を掲載し、出張者のニーズなどの変化に合わせたヒルトンの進化をアピールしているが、その裏にはこれまで通りの戦略では期待される実績は望めないとの判断が透けて見える。

ちなみにヒルトンが示したポイントは、リモートワークやワーケーションなどの働き方の変化、そしてそれに合わせた企業文化や従業員のエンゲージメント、リテンションのあり方、ウェルネスへの関心の高まりなど。これらの認識はこの記事広告に限らず多方面で共有されていて2023年以降のトレンドを形成していくと見られ、日本の旅行観光産業にとってもビジネスチャンスとなっていくと見られる。

こうした業務渡航市場の変化については、TTG Miceの記事でもイベントテックのCventの調査結果をもとに特にホテルが対応する際のヒントが提示されている。

このほか、BTN EUROPEでは業務渡航に関わる団体や企業、TMCなどの幹部が2023年の業界をどう見るかを羅列した記事も公開している。