コロナ禍で海外渡航が制限されてから1年半。当然ながら企業の出張もほぼ停止し、その手配や管理を専門に扱うTMC(トラベル・マネジメント・カンパニー)も大きな打撃を受けている。ワクチン接種が進んで入国制限も緩和されつつあるが、出張需要の見通しはビル・ゲイツ氏が半分も回復しないと言ってみたり、はたまた航空各社は完全に戻ると強気の予想をしてみたりで定まらない。本稿はそうした中で、コロナ禍における世界のTMCの現状やトレンドについてまとめる。

人員削減に事業停止、深い爪痕

コロナ禍で各TMCが受けている打撃は、世界2位のグローバルTMCでありJTBとも組んでいるCWTが経営再建策の一環でチャプター11を申請するというニュースを一つとってみてもその深刻さが分かる。

それに対して各社は人員削減などの対策を実施してきており、Skiftによると例えばアメリカン・エキスプレス・グローバル・ビジネス・トラベル(GBT)はコロナ前に1.7万人いた従業員の数を1.4万人に減らした。

さらに、豪州発でFCMやCorporate TravellerというTMC事業を持つフライト・センター・トラベル・グループ(FCTG)は、昨年4月に2万人から1.4万人へと大きく削減。このほかでもCTMが1000人減、BCDが3000人減など枚挙にいとまがない。

また、プライスライン創業者のジェイ・ウォーカー氏が立ち上げたことで高い注目を集めていたスタートアップのUpsideも9月で事業を終了。このほか、コロナ禍での対応に不満を感じた法人がTMCとの契約を見直そうとする動きもあるという。

大型の買収案件も続々

一方、買収の話題も目立っているところ。例えばGBTは今年に入ってからだけで1月に米国のOvation Travel Groupの買収を発表し、春にはエクスペディアグループのTMCであるエジェンシアも買収。同時にエクスペディアをGBTの株主に迎え長期的な戦略的提携関係を構築した。

さらに、TripActionsがReed & Mackayを、TravelPerkがClick TravelやNexTravelを、CTMがTravel and Transportを買収するなどしているところで、こうした企業では従業員数が純増しているケースもある。コロナ禍での安売りを表立って認めている案件はないが、「お買い得」と考える企業があれば今後も続いていくことが予想される。

「その出張は本当に必要か」

需要の見通しについては冒頭書いた通り意見が分かれているところで、航空会社の中でもエミレーツやユナイテッド、ルフトハンザといった企業の経営者は力強い回復を予想している一方、サウスウェスト航空のCEOは10年かかると語っている。

そうした中で確実と言い切れるのは、コロナ禍で多くの企業がオンラインミーティングやバーチャルイベントを体験したり実際に主催したりしてそのメリットを体感したことだ。

具体的にはまずはなんといってもコストで、例えばAmazon単体で年間10億ドル(約1120億円)の出張旅費を削減。また、環境への取り組みが強く求められている中で企業は温室効果ガス排出量も考慮して出張の費用対効果を検討することとなり、「その出張は本当に必要か」がこれまで以上に問われていくことになる。

また、バーチャルイベントについて言えば、今までであればリーチできなかった層の参加も期待できることもメリットの一つ。日本の旅行業界でも、観光局のオンラインセミナーに対し地方の旅行会社社員から「初めてセミナーを受けられた」と喜びの声が寄せられたという話はよく聞く。リアルでは得がたい成果であり、一つの選択肢として残っていくだろう。

これらに対して出張回復派がその論拠とするのは、人間的な触れ合いの欠如や、ワーケーションやリモートワークの浸透で新しい移動需要が生まれるといった抽象的なポイントが多く、今のところ説得力で劣ると言わざるを得ない。とはいえ、例えば中国のビジネスでは実際に会わないと勝負にならない、というような話もあり、地域やセグメントによっても差が出てくる可能性はあり得そうだ。

2~3割減が順当?

なお、出張の動向については各種の調査も実施されているところ。最近のものでは「22年出張の27%はバーチャルミーティングが代替、モルガン・スタンレー調査」、「出張は数年で完全回復、企業役員の8割が予想」、「デロイト調査、米企業の出張は22年末に最大80%まで回復、完全回復には否定的」、「出張者の約7割はコロナ前水準かそれ以上の出張希望、BCD調査、」などとなっており、短期的には2、3割の減少が妥当な水準と見られる。

グローバルTMCの日本進出、スタートアップの資金調達も

これまで紹介してきたような流れの中で、今後を見据えた動きも出てきており、例えばFCMはつい最近ソニー系のNSFエンゲージメントと合弁会社を立ち上げて日本部門を立ち上げることを決定した。

また、起業家や投資家からの注目も衰えてなく、コンカーの創業者は新興テック系TMCであるSpotnanaの取締役会長として業務渡航の世界に戻ってきた

資金調達も相次いでおり、今年に入ってからだけでもSalesTripが140万ドル(約1.6億円)Panaが360万英ポンド(約5.5億円)(※その後経費管理プラットフォームのCoupaが買収)、TripActionsが1.55億ドル(約173.2億円)などと続いている。

新規参入や新ツール稼働も続く

また最近では、Kayakも業務渡航向けのソリューションを正式稼働し日本語でも展開を開始。日本ではこのほか、IACEトラベルの「Smart BTM」AIトラベルなどもテクノロジーを活用したツールのアピールを続けている。

こうした新しいツールやスタートアップは傾向として、これまで手つかずだった、あるいは旧来型の出張手配サービスを利用してきた中小企業をターゲットにしているところが多い。そうした市場は大手TMC側も力を入れ始めているとされ、競争の激化が予想される。

また、もう一つの傾向として、経費管理・生産系のサービス提供者が出張手配に進出する、逆にTripActionsのようにTMCが経費精算ツールを開発するなど、事業領域の垣根を越える動きも顕在化している。

環境対策やウィズコロナの不安払拭プランも

一方、環境問題への意識の高まりに合わせて、大手TMCは出張に伴う温室効果ガス排出量を計算して提示する機能やそれをオフセットする機能、さらにSAF(持続可能な航空燃料)の購入支援などにへの取り組みも本格化しているところ。加えて、全世界の関係者を1箇所に集めるのではなく、各地域の拠点に集まってその拠点同士をオンラインで繋ぐ「クラスターミーティング」といった仕組みも登場している。

さらに今後の可能性という意味では、費用対効果のハードルを乗り越えた重要な出張が残るので単価やコストの削減は重視されなくなるという予測があるほか、渡航制限が頻繁に変わることへの対応も求められていく可能性が高い。

そうした中で、Skiftによると、シンガポールのTMCアプリ「TruTrip」は、サブスクリプション形式で企業に対し無条件で旅行費用を返金するプログラムを開始。TravelPerkも10%の手数料で総額の90%を返金するサービスを提供しているほか、アグリゲーターのトラベルフュージョンも「tfCFAR(Travelfusion Cancellation For Any Reason)」という返金プログラムを展開中だ。